ラフマニノフ ある愛の調べ

セルゲイ・ラフマニノフの生涯については、音楽愛好家でもなければ、なかなか一般には知られていないようだ。彼の私生活のほとんどが秘密のヴェールに包まれていたため、伝説的な存在となっていたようである。例えば、彼のコンサートの際には、一生を通して必ず白いライラックの花束を届け続けた謎の女性がいたと言われている。このことに注目したパーヴェル・ルンギン監督は、そこに焦点をあててこの芸術家の人生を描き出した。この映画のロシア語原題は、「ライラックの小枝」である。なので、必ずしも真実に基づいているわけではなく、一部監督の想像力によるものではある。幼い日、故郷の家の庭に咲いていたライラックの白と紫の花。その中を駆け抜ける少年。後を追う少女の白い服。大人の愛に目覚めた時、初恋の女性は赤いドレスの美しい人であった。ピアノ協奏曲2番の美しい旋律と共に、映像美に溢れた珠玉の1本である。
主演のエフゲニー・ツィガノフは、ラフマニノフそっくりのロシア人俳優。彼をとりまく女性3人は、妻ナターシャのヴィクトリア・トルストガノヴァ、初恋の女性アンナにヴィクトリア・イサコヴァ、革命の女闘士マリアンナのミリアム・セホンと、いずれも日本ではほとんど知られていないロシア人俳優だが、ロシア国立舞台芸術アカデミーで学んだ名女優ばかり。ズヴェレフ教授を演ずるアレクセイ・ペトレンコは「ロマノフ王朝の最期」で怪僧ラスプーチンを演じたり、「シベリアの理髪師」に出演して日本でも知られた名優である。その他、アメリカに渡ったのに、スタインウェイはもちろん、黒人歌手や花屋のオバサンまでロシア語で話しているのが、舞台がどの国であろうとすべて英語のアメリカ映画と反対でおもしろかった。
そして、私のシネ友曰く、「ロシアって、この手があったんだ。チャイコフスキー、ショスタコーヴィッチ、プロコフィエフ、ストラヴィンスキー、リムスキー=コルサコフ 、誰でも映画にできるよね」
さぁ〜、そんなに作曲家みんなドラマチックな人生を送っていたんだっけ? それにチャイコフスキーはすでに映画化されていますけど。(マイヤ・プリセツカヤも恋人のオペラ歌手役で出演しているのね。DVD買おうかしら。)
私個人としては、ムソルグスキーの「展覧会の絵」を、彼が本当に友人ヴィクトル・ハルトマンの展覧会に行き、そこに展示されていた絵について1つずつ作曲して組曲にしたという逸話に基づいて(昔NHKでやっていたのだが)映画化してほしいな。でも、これはNHKのアーカイヴズにリクエスト出した方が早いかも。または映画より実際のコンサートの方がいいかもしれない。背景にハルトマンの絵を映し出して。「題名のない音楽会」とかでもやってくれないかしら?
話がそれたが、以下、ストーリーはネタバレを含むので、これから見る人は要注意。またコメント欄をあけると、「Read More」のところが読めてしまうので、重ねてご注意。
<ストーリー>
1917年に起きたロシア革命を逃れて、ラフマニノフ一家は米国に亡命する。彼の才能を認め、さらに自社のピアノの売り込みを図るフレッド・スタインウェイは、200日100都市という全米コンサートツアーを遂行する。
ニューヨーク、カーネギー・ホールでのコンサートの夜、ボックス席に座る客達を見つめるセルゲイ。意味ありげに彼を見つめ返す二人。彼は立ち上がって舞台中央に行き、観客に告げる。「私が亡命したのは、悪夢の新政権ソ連から逃れるためです。客席にソ連大使がいる。私の親しい人たちを何人も殺した。(ボックス席に向かい)あなたの顔は忘れない。ロシアでも米国でも、あなたのためには弾かない」そしてステージを去る。ざわめく客席。非難の口笛が響く。
フレッドは、ボックス席の前に行き、ソ連大使を指さして言う。「この人こそ、今彼が糾弾した人物です。恐ろしい人間にはご退場願おう。コンサートが始まらない。」聴衆が一斉に彼に向かって紙つぶてを投げつけ、帰れコールがおこる。大使一行は席をたち、退場する。見ている方も思わず溜飲が下がった。拍手に迎えられて、セルゲイが舞台に戻り、ピアノ協奏曲第2番を演奏する。コンサートは大成功に終わる。妻のナターシャにキスするセルゲイ。
特別仕様の列車内にグランドピアノを置き、各地を移動する一行。走る列車と、演奏するセルゲイが交互に映し出される。ポスターには「完売」の札。
コンサートの成功とは裏腹に、作曲の筆が進まず、セルゲイは次第に焦りを感じる。彼を慰め、励ますのは妻のナターシャ。が、繊細なセルゲイは苛立ちを隠せない。
場面は時代を遡って1880年のモスクワ。
両親の離婚により、ほとんど置き去り状態のようなセルゲイのピアノの才能を認めたモスクワ音楽院の教授ズヴェレフ氏は、彼を自宅に引き取り、ピアノ教育を施す。が、長ずるにつれ、作曲に心を惹かれるようになったセルゲイと、演奏に専念させたい教授の間に確執がおこり、セルゲイは教授宅を出る。
その頃、セルゲイの心を捉えていたのは赤いドレスの似合う美しい年上の女性アンナ。彼は、彼女にライラックの花を贈り、彼女のために曲を書く。しかし、その交響曲第1番の発表会で、あろうことか、酔って指揮棒を振った指揮者のせいで、コンサートは大失敗に終わる。セルゲイに非はなかったが、新聞には酷評され、アンナにも去られてしまう。
失意のセルゲイを支えたのは、幼なじみの従妹ナターシャであった。彼女は婚約を破棄し、元婚約者で医師のダール氏に神経を患っているセルゲイの治療を頼む。心理療法により、何とか回復したセルゲイは、女学校で教鞭をとることになる。ナターシャの心配通り、セルゲイに心惹かれる女学生マリアンナと深い関係になる。マリアンナは、革命を夢みてコミューンに暮らしている。が、彼は新しく生まれた曲「ピアノ協奏曲第2番」をナターシャに捧げる。演奏会は大成功に終わり、二人は結婚する。故郷のライラックの花の咲く家を訪れたセルゲイは、いつかきっとここを買い戻す、と約束するのであった。
3人の娘も生まれ、彼の人生は順風満帆に思われた時、ロシア革命が勃発。セルゲイも人民委員会に呼び出される。彼を審問した二人の男は、後のソ連大使と、その側近であった。芸術家として開放されるセルゲイに、マリアンナが通行証を渡す。彼女は革命の女闘士になっていた。演奏旅行を口実に国外脱出を図るセルゲイ一家。混乱に阻まれ、駅で家族とはぐれそうになるセルゲイ。彼を救い、妻と共に出国させてくれたのは、やはりマリアンナであった。
いつの頃からか、セルゲイのコンサートに、ライラックの花束が贈られるようになっていた。その香りを嗅ぐと気鬱気味のセルゲイも気分が落ち着くのか、機嫌良く仕事を進めるのである。果たして、その花の贈り主は誰なのか。昔の恋人アンナ?彼の出国に力を貸したマリアンナ?それとも...
以下、本当のネタバレにつき、知りたくない人は読まないで下さい。
ロサンゼルスの海辺に建つ瀟洒な邸宅。子供達もしだいに大きくなるが、家族ともちょっとした諍いを起こしたり、約束を忘れたりして、苛立つ日々。芸術家には時として日常生活は煩わしいもの。一緒に出かけても、娘の誕生日さえ忘れている始末。セルゲイは妻や娘達と口論になり、車から降りる。紛れ込んだ路地で、擦り傷を作ってしまい、小さな広場に出て泉の水で手を洗う。と、その時目に入ったのは花屋の店先。香りに誘われて行くと、ライラックの鉢植えが置かれている。
訊きもしないのに、店主の女性が話しかける。「素敵でしょ。珍しいのよ。ある女性の注文で、もう何年も前からオランダから輸入しているの。今日も取りに来るはずなのに。」「女性の名前は、ロシア人で、ミセス・ナターシャ」
セルゲイの家では、ケーキにロウソクを立てて、妻が娘と一緒に吹き消そうとしているところ。庭にセルゲイが入ってきて、シャベルで土を掘り、ライラックを植える。気づいて庭に出て行く妻と娘。「願い事が叶ったわ」固く抱き合う3人に、雨が降り注ぐ。「パガニーニの主題による狂詩曲」が流れる。
1917年に起きたロシア革命を逃れて、ラフマニノフ一家は米国に亡命する。彼の才能を認め、さらに自社のピアノの売り込みを図るフレッド・スタインウェイは、200日100都市という全米コンサートツアーを遂行する。
ニューヨーク、カーネギー・ホールでのコンサートの夜、ボックス席に座る客達を見つめるセルゲイ。意味ありげに彼を見つめ返す二人。彼は立ち上がって舞台中央に行き、観客に告げる。「私が亡命したのは、悪夢の新政権ソ連から逃れるためです。客席にソ連大使がいる。私の親しい人たちを何人も殺した。(ボックス席に向かい)あなたの顔は忘れない。ロシアでも米国でも、あなたのためには弾かない」そしてステージを去る。ざわめく客席。非難の口笛が響く。
フレッドは、ボックス席の前に行き、ソ連大使を指さして言う。「この人こそ、今彼が糾弾した人物です。恐ろしい人間にはご退場願おう。コンサートが始まらない。」聴衆が一斉に彼に向かって紙つぶてを投げつけ、帰れコールがおこる。大使一行は席をたち、退場する。見ている方も思わず溜飲が下がった。拍手に迎えられて、セルゲイが舞台に戻り、ピアノ協奏曲第2番を演奏する。コンサートは大成功に終わる。妻のナターシャにキスするセルゲイ。
特別仕様の列車内にグランドピアノを置き、各地を移動する一行。走る列車と、演奏するセルゲイが交互に映し出される。ポスターには「完売」の札。
コンサートの成功とは裏腹に、作曲の筆が進まず、セルゲイは次第に焦りを感じる。彼を慰め、励ますのは妻のナターシャ。が、繊細なセルゲイは苛立ちを隠せない。
場面は時代を遡って1880年のモスクワ。
両親の離婚により、ほとんど置き去り状態のようなセルゲイのピアノの才能を認めたモスクワ音楽院の教授ズヴェレフ氏は、彼を自宅に引き取り、ピアノ教育を施す。が、長ずるにつれ、作曲に心を惹かれるようになったセルゲイと、演奏に専念させたい教授の間に確執がおこり、セルゲイは教授宅を出る。
その頃、セルゲイの心を捉えていたのは赤いドレスの似合う美しい年上の女性アンナ。彼は、彼女にライラックの花を贈り、彼女のために曲を書く。しかし、その交響曲第1番の発表会で、あろうことか、酔って指揮棒を振った指揮者のせいで、コンサートは大失敗に終わる。セルゲイに非はなかったが、新聞には酷評され、アンナにも去られてしまう。
失意のセルゲイを支えたのは、幼なじみの従妹ナターシャであった。彼女は婚約を破棄し、元婚約者で医師のダール氏に神経を患っているセルゲイの治療を頼む。心理療法により、何とか回復したセルゲイは、女学校で教鞭をとることになる。ナターシャの心配通り、セルゲイに心惹かれる女学生マリアンナと深い関係になる。マリアンナは、革命を夢みてコミューンに暮らしている。が、彼は新しく生まれた曲「ピアノ協奏曲第2番」をナターシャに捧げる。演奏会は大成功に終わり、二人は結婚する。故郷のライラックの花の咲く家を訪れたセルゲイは、いつかきっとここを買い戻す、と約束するのであった。
3人の娘も生まれ、彼の人生は順風満帆に思われた時、ロシア革命が勃発。セルゲイも人民委員会に呼び出される。彼を審問した二人の男は、後のソ連大使と、その側近であった。芸術家として開放されるセルゲイに、マリアンナが通行証を渡す。彼女は革命の女闘士になっていた。演奏旅行を口実に国外脱出を図るセルゲイ一家。混乱に阻まれ、駅で家族とはぐれそうになるセルゲイ。彼を救い、妻と共に出国させてくれたのは、やはりマリアンナであった。
いつの頃からか、セルゲイのコンサートに、ライラックの花束が贈られるようになっていた。その香りを嗅ぐと気鬱気味のセルゲイも気分が落ち着くのか、機嫌良く仕事を進めるのである。果たして、その花の贈り主は誰なのか。昔の恋人アンナ?彼の出国に力を貸したマリアンナ?それとも...
以下、本当のネタバレにつき、知りたくない人は読まないで下さい。
ロサンゼルスの海辺に建つ瀟洒な邸宅。子供達もしだいに大きくなるが、家族ともちょっとした諍いを起こしたり、約束を忘れたりして、苛立つ日々。芸術家には時として日常生活は煩わしいもの。一緒に出かけても、娘の誕生日さえ忘れている始末。セルゲイは妻や娘達と口論になり、車から降りる。紛れ込んだ路地で、擦り傷を作ってしまい、小さな広場に出て泉の水で手を洗う。と、その時目に入ったのは花屋の店先。香りに誘われて行くと、ライラックの鉢植えが置かれている。
訊きもしないのに、店主の女性が話しかける。「素敵でしょ。珍しいのよ。ある女性の注文で、もう何年も前からオランダから輸入しているの。今日も取りに来るはずなのに。」「女性の名前は、ロシア人で、ミセス・ナターシャ」
セルゲイの家では、ケーキにロウソクを立てて、妻が娘と一緒に吹き消そうとしているところ。庭にセルゲイが入ってきて、シャベルで土を掘り、ライラックを植える。気づいて庭に出て行く妻と娘。「願い事が叶ったわ」固く抱き合う3人に、雨が降り注ぐ。「パガニーニの主題による狂詩曲」が流れる。
コメント
ライラックとリフシッツ
はじめまして、北海道・札幌から初コメントさせていただきます。ラフマニノフ、そしてライラックの文字に眼がとまりました。実は、今月の札幌交響楽団定期で、ピアニスト・リフシッツがラフマニノフの三番のピアノコンチェルトを弾くのです。そして今、札幌はライラックの季節。もう一番の見ごろは過ぎましたが・・・。さらに市内のシアター・キノでは、ラフマニノフの映画を上映中。あらら、ラの頭文字であふれています。失礼しました、今後も、度々読ませていただきます。ではまた!
牧場のはぐれ牛さん、こんな所に足を伸ばして下さって、コメントありがとうございます。
札幌は6月が美しい季節ですね。ライラックの咲く頃に行ったことがないので、是非今度はこの頃に訪れたいです。ライラックの香りに浸ってみたいです。
コンスタンチン・リフシッツはまだ演奏を聴いたことがありませんが、素晴らしいピアニストのようですね。札幌交響楽団との演奏会、二日間もあるのですね。もっと近かったら行ってみたいですが。もう一曲が、バレエ音楽「春の祭典」というのも魅力的ですね。
http://www.sso.or.jp/
ラフマニノフの映画ご覧になったでしょうか。ピアノ協奏曲3番は映画「シャイン」に出てきますね。「世界一難しい曲」として描かれていますが、リフシッツ氏の演奏、楽しみでしょうね。またどうぞお越し下さい。
札幌は6月が美しい季節ですね。ライラックの咲く頃に行ったことがないので、是非今度はこの頃に訪れたいです。ライラックの香りに浸ってみたいです。
コンスタンチン・リフシッツはまだ演奏を聴いたことがありませんが、素晴らしいピアニストのようですね。札幌交響楽団との演奏会、二日間もあるのですね。もっと近かったら行ってみたいですが。もう一曲が、バレエ音楽「春の祭典」というのも魅力的ですね。
http://www.sso.or.jp/
ラフマニノフの映画ご覧になったでしょうか。ピアノ協奏曲3番は映画「シャイン」に出てきますね。「世界一難しい曲」として描かれていますが、リフシッツ氏の演奏、楽しみでしょうね。またどうぞお越し下さい。
返信感謝、リフシッツ様に関しては・・・
ご返信、ありがとうございます。リフシッツ様については、いろいろ話したいこともありますが、次の機会にゆっくり。彼はバイオリニストの樫本さんとも、仲がよろしいようですね。ではまた!
リフシッツ氏、札幌の次の日には樫本大進さんとのコンサートがあるのですね。連日精力的ですね。
http://asahi.co.jp/symphony//symphony2008/c20080622.html
音楽についてはバレエほど詳しくない私ですが、コンサートが済みましたら、その様子など是非お聞かせ下さい。また遊びに来て下さいね。
http://asahi.co.jp/symphony//symphony2008/c20080622.html
音楽についてはバレエほど詳しくない私ですが、コンサートが済みましたら、その様子など是非お聞かせ下さい。また遊びに来て下さいね。
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