6月13日(土) 15:00〜 ゆうぽうとホール
<キャスト>
ジゼル:吉岡美佳
アルブレヒト:フリーデマン・フォーゲル
ヒラリオン:木村和夫
【第1幕】
バチルド姫:坂井直子
公爵:後藤晴雄
ウィルフリード:野辺誠治
ジゼルの母:橘静子
ペザントの踊り(パ・ド・ユイット):
高村順子-宮本祐宜、乾友子-長瀬直義
佐伯知香-松下裕次、吉川留衣-横内国弘
ジゼルの友人(パ・ド・シス):
西村真由美、高木綾、奈良春夏、田中結子、矢島まい、渡辺理恵
【第2幕】
ミルタ:田中結子
ドゥ・ウィリ:西村真由美、吉川留衣
指揮:井田勝大
演奏:東京ニューシティ管弦楽団
フォーゲル君がゲストということで見に行った。彼は一昨年の
ニジンスキー・プロで、ケガをしたマラーホフの代わりにアルブレヒトを踊ったのだけど、私は見ていなかった。祭典会員の演目では3演目のうち2つしか見られず、マラーホフで何回か見たことのあった「ジゼル」をはずしたのであった。 振り返ってみると、今まで東バの「ジゼル」は全てゲストとの公演しか見ていない。マラーホフ&ヴィシニョーワ、フィーリン、ルグリ&コジョカルだが、それだけ回数は結構よく見ているということになる。
フォーゲル君は、世界バレエフェスやポリーナとの「白鳥」で見ていたが、なかなかイケメンなんだけど、今ひとつもっさり感が抜けないでいた。それが、昨年のシュツットガルトの「オネーギン」で踊ったレンスキーが本当に素晴らしく、テクニックでも容姿でも、ひと皮むけたような印象だったので、やはり彼の「ジゼル」が見たくなったのである。その前に4月のスペシャルガラで踊った「エチュード」もよかったが、打ち上げ花火みたいに次々とテクニックを繰り出すサラファーノフとの共演だったので、全幕のアルブレヒトは果たしてどんなものかと期待して見に行ったのである。
1幕ではやはり黒いマントを被って登場すると、本当に貴族の御曹司という感じ。それを脱ぐと、茶色の、袖にスリットのたくさん入った上着に白いタイツ、茶色のブーツ。これどっかで見た衣裳なんだけど、ダンマガの写真にあったのかな〜 とっても若々しく、年齢オーバーなアルブレヒトばかり見ているせいか(笑)、恋に一途なフレッシュなアルブレヒトという感じで、好感度大。等身大の青年貴族である。
それにしても、彼がジゼルに会うのを止めようとするウィルフリードの演技がやたら大きくて気になった。いちいち「おやめ下さい」と止めるくせに、最後は妙にアッサリと引き下がっていくので不自然に感じる。ちょっと止め過ぎ。
吉岡さんのジゼルはとっても細く小さくて、フォーゲルがひと回り大きく見える。ポリーナとの時は、彼女の方が顔だけ半分の大きさだったが、吉岡さんは全体的に半分くらいに感じる。それでも彼女は卓越した演技と可愛らしさで、年齢を感じさせないで若々しい少女に見えたが、フォーゲル君の方は若者そのままなので演技という点ではまだもう一つというところかもしれない。1幕ではアルブレヒトはサポート的な踊りが多くて見せ場は少ないので、この辺り、なりふり構わずジゼルに夢中なアルブレヒトとか、優しくて大人なアルブレヒトとかばかり見てきたせいか、あまりにストレートなので何と言っていいか。まぁ、アルブレヒトは若く純粋で美しいにこしたことはないので、これくらいでいいのかもしれない。
なので、やはり木村さんのヒラリオンは大人の男に見える。ここの版では彼が村人達と一緒に踊る所があるのだが、村人達に混じると一段と背の高さ、脚の長さが目立ち、真面目でよく働きそうだし、(このバレエ団きってのダンスール・ノーブルだし)それこそ「こっちにしといた方がきっと幸せになれたよ、ジゼル」なんて言いたいくらいだが、やはり恋はそういうものではないのよね〜(笑)
それにしても、木村さんのヒラリオンは、本当に天下一品という感じがする。演技も登場した時から一つ一つにきちんと説明がつくし、それでいてやりすぎでもない。ジゼルをたぶらかす悪いヤツから守ろうと、本当に真剣だし、ジゼルを死に至らせたのはお前のせいだと、アルブレヒトとお互いにやりとりするも、自分にも責任があると感じてか、剣をさし抜くアルブレヒトの前にひざまずき、さぁ、殺せとばかり大きく腕を広げる。こんなヒラリオン他にはいないだろう。1幕の演技と、2幕の踊り、(ウィリー達の間から大きなジャンプ)この二つが揃ったヒラリオンなんて、滅多に見られるものではない。
フォーゲル@アルブレヒトは、バチルド姫が現れても、「いや、この(村人の)服装は、ほんの戯れです」なんてマイムをすることはするのだが、上手にごまかそうとするわけでもなく、なんか居心地悪そうで、二人の女性の間をうまくやっていこうとするような恋の手管に長けた男ではとうていない。不器用に自分の恋をごまかせないところがやっぱり若さね〜なんて思わせて、この点では彼の起用は成功かもしれない。
ただ、ジゼルにしてみれば、真剣に愛していたのに、二股が発覚して、もう心が壊れて行くほかはない。目は虚ろであらぬ方向に手をさし伸べ、幸せに感じた花占いを再現し、剣を手にして我が身を刺し貫かんばかりの動きをする。自分を抱きとめようとする男にさえ恐怖を感じ、ひたすら温かい母の胸に飛び込み、かつ愛する男の腕に抱かれる前に発作を起こして息絶える。というわけで、一幕を制していたのは圧倒的にジゼルの方なのであった。いつもはどちらかというとアルブレヒトの方ばかり気になっていたのに、今回はかなりジゼルに感情移入、我ながらちょっと肩透かしをくらったような感じであった。
もちろん、フォーゲル@アルブレヒトはとってもジゼルを愛していて、貴族の身分や立場など頭にないような、一途で純粋な若者に見えたことは見えたのだけれど。ちょっとまだ演じ込みが足りないのかな?それだけこの演目が目に見える以上に難しいものだということなのだろうか。というより、事の重大さにすぐ気づかないのが育ちのよいお坊ちゃんならではなのだろう。
まぁ、たいていの人は、フォーゲル君の貴公子ぶりを目にするだけで十分、と感じるかもしれないので、私は少しひねくれた見方をしているのかもしれないが。日頃からあまりに経験豊富なアルブレヒトばかり見ているせいだろうか。(笑) でも上手いダンサーって、やっぱり年季の入っている人が多いからな〜 見るからに若く初々しく、(美形で)かつテクニックもあるダンサーって、現代ではやっぱりこのフォーゲル君くらいしかいないのかしら。(モロー君のアルブレヒトが見たくなった。マチューでもいいけど、サラファーノフは遠慮したい。そういえば来年のパリオペ、「ジゼル」じゃん!)
あと、一幕のハイライトといえば、ペザント(パ・ド・ユイット)だけど、東バも最近どんどんメンバーが変わるので、若手は平野さんくらいしかわからない。吉川留衣・横内国弘ペアが目立ってたような気がする。他のカンパニーにないユィット形式にも慣れてきて、多人数で次々と踊りが展開するこの版の良さもわかるようになってきたけど、最後のキメのところで、一番奥が高く、順に前へ低くなるように並ぶのだが、奥から2番目のペアの高さが少し足りず、(前見た時のような)きれいなスロープになっていなかったのが残念。
2幕では、1回くらい前から気づいていたのだが、背景のあの不気味な月がなくなったのはいいと思う。田中結子さんのミルタは特に悪いとは思わないが、怖さという点で少し物足りない。やっぱり井脇さんのミルタの印象が強すぎるのだろうか。井脇さんと言えば、ドゥ・ウィリーの一人吉川留衣さんは、雰囲気が井脇さんに似ていて間違えそうだった。
ゆうぽうとは少しステージが狭い感じがして、ウィリー達が揃うと(奥行きがあまりなくて)窮屈そうに見えた。ここの版て、ウィリー登場の時にベールを被っていなかったっけ? 前、あれが不自然にピュッと後に引っぱられて、静寂な夜の場面なのに思わず笑いそうになった気がするのだけど、他のバレエ団だったかな? そう思ってたら、ジゼルが登場した時、被っていたベールが後に糸で引っぱられるようにピュッと飛んでいった。
ジゼルがアルブレヒトの周りを走り去ったりする場面では、ワイヤーで飛んでいく所もあった。最近こういうのは減ってきたように思うが、走り方が人間ぽい人もいるので、ワイヤーを使ってでも、滑らかに飛んでいく方がウィリーらしいと思う。
振付のせいなのか、いつもはコール・ドの足音が気になる東バなんだけど、あまり聞こえなかったように思う。反対に、吉岡さんは、1幕では全く足音がせず、さすがと思ったのだが、やはりアルブレヒトと踊る場面では着地音がしっかり聞こえてしまった。フォーゲル君に至っては、ドシンと大きな足音をたてていた。それで、二人で踊る場面では、同時に跳ぶ所があるので、足音がドスンというほど大きくて、隣の席のオジサンが2幕中頃から居眠りしていたのだけど、その音で目をさましていた。
フォーゲル君は2幕の黒い衣装がすごく素敵だった。マントを着て百合を抱えた姿はまさに貴公子。タイツはパープルだった。ライトによってはピンクがかって見える。彼は大腿がものすごく発達していて、一緒に踊ると吉岡さんがますます小さく見える。ジャンプはさすがに高いし、後に上がる脚の位置も高い。ミルタの前に跳んでくるブリゼも、倒れた時の脚の形も美しい。でも〜 何かが変、と思ったのは、髪が乱れ過ぎなのよね。ふわふわの髪なんだから、整髪料などでもう少し押さえた方がいいように思った。それ以外はサポート等もよくて、1幕より2幕の方が彼の良さが発揮できていたと思う。
吉岡さんは、1幕では少しやつれた感じもしていたが、とても美しくて、本当にウィリーのように軽やかで繊細だった。ジゼル特有の、静止したままゆっくりと脚を後に高く上げていくアラベスクでは、ほぼ180度ほども上がっていた。あんなに高く上がるダンサーはあまり見たことがないように思う。といって、派手なアピールは一切なく、本当に空気に溶けてゆくような、儚い死の世界の住人になっていた。よく考えたら(なぜか)彼女のジゼルは初めてなのだが、こんなに良いのならもっと早く見ればよかったと思うほどだった。フォーゲル君との年の差もほとんど感じさせず、ひたすらアルブレヒトを愛するジゼルだった。
カーテン・コールでは大きな百合の花束が贈られ、バレエはやはりバレリーナのもの、と感じさせた。その中から1本取って、フォーゲル君にあげていた。彼も思わず彼女の額にキスしていた。彼女はもっと評価されるべきダンサーなんじゃないかと思った。少なくとも日本人では私が今まで見た中では一番素晴らしいジゼルだったように思う。(都さんや森下さんとかの「ジゼル」は見てないので)最後はスタンディング・オベーションで、カーテン・コールが終わったら5時半をまわっていた。
<オマケ>
*ゆうぽうとホールのホワイエに東京バレエ団「ラ・バヤデール」の衣裳が展示してあった。

ニキヤ ソロル

ガムザッティ
マカロワ版だけあって、ロイヤル・バレエ団の衣裳に似ている。このニキヤの衣裳を1幕で着ていたギエムは本当に美しかった。(衣裳はこれよりもっと美しかった) ソロルの衣裳は3幕「影の王国」のもの。ガムザッティはあまり記憶がないが、2幕の自宅で着ていたもののように思う。(にしては豪華だけど、婚約式はクラシック・チュチュだったし、結婚式は赤だったと思う)
衣裳が同じということは、演出も大体同じなんだろうな。